一昔前は、結婚＝籍を入れるという考え方が一般的でした。
夫もしくは妻がどちらかの戸籍に入ることによって、社会的にも法律的にも「夫婦」として認められていたのです。
しかし、近年では様々なことが「多様化」しており、結婚についても考え方が変わってきています。
中でも注目を集めているのが「事実婚」という新しい結婚の形です。
今回は、そんな事実婚の意味やメリット、デメリットについて詳しく解説していきます。
・事実婚とは？
結婚には、以下2つの種類があります。
・法律婚
・事実婚
両者の違いは「婚姻届けを役所に提出したか」の1点だけです。
婚姻届けを提出し、戸籍が同一になっている場合は法律婚、婚姻届けを提出しておらず、戸籍も別々になっているのであれば事実婚ということになります。
事実婚と聞いて、
「それなら同棲と変わらないのでは？」
と感じる方もいると思いますが、同棲と事実婚は、婚姻の意思があるかどうかで区別されます。
・お互いに夫婦であるという自覚を持っている
・共同生活を送っている
上記の条件を満たしている場合、婚姻届けを提出していなくても社会的に「夫婦」として認められるのです。
・事実婚をする人が急増している理由
近年では、事実婚をする方が急増しています。
以下、その理由について詳しく見ていきましょう。
・・籍を入れる必要性を感じない人が増えているから
婚姻届けを提出して法律婚をする場合、夫もしくは妻がどちらかの戸籍に入る必要があります。
ただ、近年では晩婚化が進んでおり、
「いまさら籍を入れる必要がない」
と感じる方が増えているのです。
このようなことから、籍を入れずに共同生活を送る「事実婚」を選択する方が多くなっています。
・・パートナーのみを望む方が増えているから
「結婚願望はないが、パートナーは欲しい」
と考える方の中には、事実婚を選択する方もいます。
結婚と聞くと、少しプレッシャーに感じてしまいますが、事実婚であればお互いに支え合いながら生活しつつ、紙きれに縛られない自由な生活を送れるため、お互いにとってストレスのない関係を構築しやすくなるのです。
・事実婚のメリット
では次に、事実婚のメリットについて詳しく見ていきましょう。
・・苗字を変える必要がない
法律婚をする場合、どちらかが苗字を変更する必要が出てきます。
ただ、中には自分の苗字を変えたくないと考えている方もいるでしょう。
事実婚の場合、婚姻届けを提出する必要がないため、夫婦別姓を名乗れます。
また、法律婚をして苗字を変えた場合、各方面で旧姓の登録情報を変更しなければなりません。
・銀行
・クレジットカード
・パスポート
・免許証
など、様々な書類の情報を変更しなければならず、非常に手間がかかります。
事実婚の場合は、このような手間がかからないため、スムーズに結婚生活をスタートさせられます。
・・万が一離婚しても「×」はつかない
あってはならないことですが、事実婚の場合は万が一離婚することになっても戸籍に「×」はつきません。
なぜなら、そもそも入籍をしていないからです。
戸籍に×がついたからといって、日常生活に大きな影響があるわけではありませんが、離婚歴を戸籍に残したくない方にとっては1つのメリットといえるでしょう。
・・精神的な負担が少ない
結婚は、幸せな未来を手に入れるための第一歩ですが、それ以上にプレッシャーもあります。
男性の場合は、
・お金
・仕事
など、守るべき人が増えることによって今以上に心配や不安が増えるでしょう。
女性の場合は、
・妊娠、出産
・生活
など、男性とはまた違った心配や不安を抱えることになります。
これらの心配や不安の原因は「婚姻届け」という1枚の紙きれが原因です。
事実婚の場合、紙きれに縛られることなく夫婦として認めてもらえるため、精神的な負担を軽減しやすくなります。
・・法律婚とほとんど同じ権利、義務が認められている
事実婚と聞いて、
「世間的には夫婦として認められないのでは？」
と考える方もいると思いますが、たとえ事実婚でも法律婚とほとんど同じ権利、義務が認められます。
同居の義務や扶養の義務はもちろんのこと、財産分与の請求権もあると考えられています。
相手の不倫やDVが原因で離婚した場合、慰謝料を請求することも可能です。
子どもがいて、認知されていれば養育費の請求も可能ですし、相手が亡くなった場合は遺族年金も受給できます。
先ほど解説した事実婚の条件を満たしていれば、仮に婚姻届けを提出していなくても夫婦として認められ、法律婚とほぼ同じ権利や義務が認められるため、不便に感じることはほとんどないでしょう。
ただし、夫婦であることの証明をする必要があるため、有事の際は若干手間や負担が増えるかもしれません。
・事実婚のデメリット
では次に、事実婚のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
・・親権は原則母親のみ
事実婚をしている夫婦に間に生まれた子供は、自動的に母親の戸籍に入ります。
父親との関係は「非嫡出子」となり、認知というステップを踏まないと父子関係が発生しません。
また、仮に認知をしたとしても親権は母親にあり、夫婦で子どもの親権者になることはできませんので注意が必要です。
・・配偶者控除が受けられない
法律婚をしている場合、配偶者控除の対象となるため、支払う税金を抑えられます。
しかし、事実婚の場合は配偶者控除が認められないため、税制面での恩恵を受けられなくなるのです。
長い目で見るとかなり大きな金額になりますので、慎重に話し合っておかなければなりません。
・・遺産相続が受けられない
事実婚の夫婦は、お互いに法定相続人とはなりません。
どちらかが亡くなったとしても、遺産を相続できないということです。
ただし、遺言書を作成したり、死因贈与契約を結んだりすることによって、相続に関するデメリットをカバーできます。
とはいえ、上記の方法で遺産を相続したとしても、配偶者税額軽減の対象にはならないため、負担する税額が増えてしまいます。
・・婚姻関係の証明が難しい
婚姻関係の証明が難しいということも、事実婚のデメリットです。
事実婚をしている場合、住民票に「未届けの妻（夫）」として記載されるため、住民票があれば夫婦であることを証明できますが、毎回取りに行くのは大変です。
契約など、あらかじめ書類が必要になることが分かっている場合は別ですが、緊急入院の際は夫婦であることが証明できないと病室に入れてもらえなかったり、主治医からの説明を聞かせてもらえなかったりすることもあります。
・事実婚をするときに話し合っておくべきこと
では次に、事実婚をするときに話し合っておくべきことをいくつか紹介していきます。
・・お金のこと
事実婚をする場合でも、夫婦になることには変わりありません。
今後は共同生活をしていくことになりますので、
・生活費の負担割合
・銀行口座の名義
・共通の財産
・毎月のお小遣い
など、お金に関するルールをしっかりと決めておきましょう。
お金の切れ目は縁の切れ目という言葉があるように、お金に関するトラブルが起こると夫婦関係に亀裂が入りやすくなるため、お互いが納得するまでしっかりと話し合うことをおすすめします。
・・子どものこと
事実婚の場合は、子どものことについてもしっかりと話し合っておかなければなりません。
先ほども解説したように、事実婚の場合は基本的に母親が親権者となり、認知という手続きをしないと父子関係が発生しないため、このあたりについても話し合っておく必要があります。
・・夫婦としての理想像
事実婚の場合、婚姻届けを提出しないため、お互いの責任感が薄れやすいです。
責任感が薄れてしまうと、異性やお金に関するトラブルが起こりやすくなります。
このような事態を避け、いつまでも仲良く夫婦生活を送るためには、夫婦としての理想像をしっかりと話し合っておくことが大切です。
どんな夫婦になりたいのか、そのためにはどうすればいいのかを話し合うことによって、お互いの信頼や絆がより深まるでしょう。
・事実婚に必要な手続き
では次に、事実婚をした場合に必要な手続きを紹介していきます。
・・世帯変更の手続き
世帯変更の手続きとは、世帯の構成を変更する手続きのことです。
世帯を1つにしておき、続柄に「世帯主」と「夫（未婚）」「妻（未婚）」を記載しておくことによって、事実婚であることがわかりやすくなります。
・・公正証書の作成
公正証書とは、法的効力のある書類のことであり、約束事を公正証書にしておくことによって、夫婦としての生活をイメージしやすくなります。
また、お互いが責任を持って「夫」「妻」として生活できるようになるため、夫婦特有のトラブルなども防ぎやすくなるのです。
・・遺言書の作成
先ほども解説したように、事実婚の場合は法定相続人になれないため、事前に遺言書を作成しておくことが大切です。
そうすることによって、どちらかが亡くなったとしても遺産相続を受けられるようになります。
中には、
「まだ若いから大丈夫」
と考える方もいますが、何が起こるかわかりませんので早い段階で作成しておきましょう。
・・婚姻関係の証明
一部の都道府県では、パートナーシップ制度が取り入れられています。
この制度は東京都渋谷区と世田谷区で初めて施工された同棲カップルを対象とした制度でしたが、現在においては国内100以上の地方自治体が取り入れています。
婚姻関係の証明を行っておくことによって、事実婚の証明がしやすくなるため、積極的に利用しましょう。
ただし、自治体によってはパートナーシップ制度を取り入れていないケースもありますし、手続きの方法が異なるケースもありますので、事前に確認しておくことをおすすめします。
・まとめ
事実婚とは、婚姻届けを提出せずに夫婦として生活をする新しい結婚の形のことです。
晩婚化が進んでいる昨今においては、事実婚を選択する夫婦が増えています。
そんな事実婚にはメリットもあればデメリットもありますので、今回紹介した内容を参考にしながら慎重に検討していくことをおすすめします。
また、事実婚をするときに話し合っておくべきことや、事実婚をした場合に必要な手続きなどもありますので、全体像を理解した上で準備を進めていきましょう。
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